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色んなことがあるけれど。 わたしはきっと、幸せなのでしょう。
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   4

 小動物の反応だと言った。
 女医は確かにそう言った。
「じゃあこんな環境、生き物が好むわけないわ・・・」
 そりゃあ人にとっては、便利なことこの上ない世界かもしれない。
 だけど他の生き物にとっては、危険でしかない。
 体を電気が流れる。
 そんな体験一度でもしたら、もう人間には近づきたくない。
 都会になんか近づきたくない。
 最近ではどんな田舎でも電波が届くようになったらしい。
 どんな山奥でも。
 では、もうこの国に生き物が危険なく暮らせる場所はない。
 どこにもない。
 それは彼らと同じ痛みを受ける小夜にとっても同じということで・・・。
「Cランチとセットのアイスコーヒーでございます」
 店員が料理を置き、去っていく。
 クーラーのきいた店内には、静かな感じのBGMが流れていた。
 店員2名と客が小夜の他に2組。
 それぞれ若い恋人同士のようで、華やかな会話が聞こえてくる。
 対して小夜は黙りこくったまま、黒いオーラを出してうつむいていた。
 まだ昼食を食べていなかったからちょうどよかったのだけど。
 ここに飛び込んだのは、なんとなく室内なら安全だと思えたからだった。
 一歩でも外に出たら、そこはまた電波の世界。
 だからしばらく避難とは言わないけれど、せめてどうやって突破するかは考えなくてはならなかった。
 ・・・何も思いつかないが。
 小夜は息をつき、気を取り直してスプーンを持った。
 半熟卵で包んだオムライス。
 他のメニューはカツやらフライやらの揚げ物で今は食べる気が起こらなかったので、これしかなかった。
 ケチャップを腹で伸ばしてから、すくって口に入れる。

「・・・?」
 小夜は首をかしげる。
 卵の味がしなかった。
 もうひと口食べる。
 ケチャップの味もしない。
 あるのは米粒のぶつぶつした食感と、マッシュルームや鶏肉のむにっとした感覚だけ。
 スープを飲む。
 ・・・何の味だかわからない。
 サラダを食べる。
 ・・・ドレッシングがかかっているのかさえわからない。
 コーヒーをそのまま飲んだ。
 ・・・ブラックなのに、渋くない。
 シロップとミルクをどばどば入れて、再び口に含んでみても何も変わらない。
 ただの水みたいだった。
 ・・・そういえば、良明が言っていた。
 薄い、と。
 熱いものが小夜の膝に落ちた。
 ぱたぱた。
「ら?」
 熱い涙が頬を伝う。
 味がわからなくなるなんて。
 やっぱり何か悪い病気なんだと、小夜は思った。
 だから「放射線科」なんだ。
 そう思うと、とてもみじめで。
 どうして自分ばっかりこんな目にあうのかと、ただただ悲しくて仕方がなかった。
「うっ・・・うう・・・っ」
 しゃくりあげすぎて、息ができなくなってきた。
 体の酸素がなくなって、腕がしびれてくる。
 味のないオムライスが、涙でにじんでしまった。
 おいしそうな香りだけが、憎らしく鼻にのぼってくる。
 ・・・匂いはまだわかるらしい。
 わかったところで、味がわからないことに変わりはない。
と。
「うっ・・・」
 突然、嗚咽とは別の、胃からこみ上げてくるような気持ち悪さが小夜を襲う。
 気持ち悪い。
 心なしか、お腹も痛い。
 我慢ができる限界は、瞬時に超えた。
 さすがに店内で吐くのは申し訳ないとかすかな理性が命じて、小夜は立ち上がろうとする。
 が、酸欠で足に力が入らず、床に崩折れてしまった。
 一緒にいくつか食器が落ちてきた。
 食器の割れる音に、すぐに店員達が駆けつけてくる。
 他の客も何事かと立ち上がる。
「お客様!」
「なんだ・・・!?」
「どうなさいましたか、お客様!」
 小夜は応えられずにもだえる。
 床に倒れても吐き気がおさまらない。
 涙で顔面がとても熱い。
 痛むお腹が脈打って全身に響く。
 酸欠で力が入らない。
 吐きたい。気持ち悪い。
 頭の中がぐじゃぐじゃになって、周りの人間が判別できない。
「救急車を呼んだほうが良い・・・」
 誰かがそう言って、電話をかけ始める。

 電話・・・・・・携帯電話。

「いやああぁっ!!」
 それが目に入った瞬間、小夜は立ち上がり、相手を突き飛ばしていた。
 突き飛ばされた男は、体勢を崩して後ろのソファーに激突する。
 手から離れた携帯電話は宙を舞い、回転しながら床に落ちた。
 小夜はすかさずそれを踏みつける。
 パキッと簡単に真ん中で折れて、画面が真っ黒になった。
 更に他の客がいた席のテーブルに置かれた別の携帯電話が目に入る。
「うわああああああ!!」
 小夜はそれをつかみ、壁に叩きつける。
 力いっぱい何度も何度も叩きつけた。
 携帯電話の持ち主らしい女性が悲鳴をあげた。
 黒い携帯の表面がはげて、白い壁にこびりつく。
 小夜の拳から流れる血も、一緒にこびりついた。
 数人の男達に取り押さえられるまで、小夜は泣き叫びながら暴れ続けた。
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   5

 白い壁に叩きつけた、赤い血と黒い粉。
 白い天井に、白いカーテン。
 病院の真っ白な風景は、それらを鮮明に思い出させる。
 瞳を開こうが閉じようが、脳裏に焼きついて離れなかった。
「小夜」
 その白い視界に良明が現れる。
「話は終わった?」
「ああ」
「なんて?」
「このまま予定日まで入院してもいいってさ」
「・・・そう」
 開いた窓からひんやりした風が入ってきた。
 傾いた太陽が、部屋を赤く染め始める。
 小夜が風邪をひかないかと案じたのか、良明はすぐにその窓を閉じた。
 カーテンも閉められる。
 電気のついていない病室は、夜が来たかのような暗さになった。
「店の人や、携帯の持ち主には俺から謝っておいたから」
「・・・ごめんなさい」
「事情を説明したらみんな納得してくれた。だからもう気にするな」
「・・・・・・」
 喫茶店で暴れた後、小夜はすぐに近くの総合病院に入院させられた。
 偶然にもあの女医の紹介した所だったのは、小夜にとっては皮肉でしかなかった。
 もっとも、小夜が入院したのは放射線科ではなかったのだが。
「ひどいつわりだったんだろ?」
「そうね・・・びっくりするくらいひどかったわ」

 産婦人科。
 病院に運ばれた時、小夜は妊娠五ヶ月目に入っていた。
 良明は嬉しそうに小夜のお腹をなでながら、
「味覚がおかしくなって、肌が敏感になって。・・・今思えば、立派な妊娠の兆しだったんだなぁ」
 彼は父親になることを手放しで喜んだ。元々子供が好きなのだ。
 来る度に絵本やらクラシックCDやらを買ってきては、小夜の枕元に並べている。
 きっと家に帰ったら帰ったで、ベビーグッズであふれかえっているのだろう。
 安月給なのに大丈夫なのだろうかと、小夜はお金の方が気になった。
 彼がそんな風に喜んでくれるのが嫌ではなかったが、小夜はそこまで喜べなかった。
「・・・ごめんなさい」
「気にするなって」
 味覚は戻らない。
 電波は怖い。
 気づかずにここまで流産しなかったのは、単純に運がよかっただけだろう。
 飲酒もしたし、危険な作業もたくさんした。
 そして何より、子供は何度も電気にさらされた恐れがある。
 これ以上さらされることのないように、このまま入院することを希望した。
 でも、これから最低半年は入院する自分は、夫に迷惑しかかけられない。
「味覚がおかしくなって、肌が敏感になって。・・・本当に、妊娠だけのせいなのかしらね」
 良明には聞こえないようにつぶやいて、小夜は天井を見つめた。
 白い、赤い、黒い、痛み。
 包帯に包まれた手の甲が、少し痛んだ。

 病院は安全地帯。
 ここでは電波は、絶対に襲ってこない。
 だけどそれは、規則での禁止があるだけのことで・・・。
 窓の外の世界では、今もこれからも、ずっと電波であふれかえっているのだ。
 小夜は腹に手を当て、優しくつぶやいた。
「あなただけは守るからね」

                了
根つめて。

ガーッと頑張りすぎて寝不足で。

一度落ちたらうっかりめちゃくちゃ寝すぎてしまいました。。

あぅあー。



やばい。

やばい。

最近疲れがたまってたしなぁ・・・

病院行って、体は元気に軽くなるけど

気持ちが疲れていってるというか。


気持ちの疲れは寝ないと治らないのです。

私の場合。


うー。

でも、だからだいぶ気持ちは楽になったのでした。

追い詰められてることに変わりはないけど・・・ね。
病院通いですっかり手をつけられずにいた創作活動を、ようやく開始しました。

完成期限は残り3日。

デッドオアアライブ。


ネタは固まっていたけれど、なかなかパソコンに向かえていなかったのでした。。

うー・・・

眠い。
毎日接骨医に通っています。

おかげでなんだか体が軽くなりました。

臣です。

ふわー。


春に盲腸の手術をした時、麻酔を打とうとして

背骨が曲がっているよー と言われ、

かなり気にしてきたけどやっぱり自然には治らず。


足の治療のついでに毎回全身マッサージしてもらっていると、

自分の姿勢の悪さがかなり気になってきました。


なんか、肩に力が入ったらあごが前に出るのですよ。

ぐいんと。

昔から。


気にしてても気を抜いた一瞬で前に出るし。

くそぅ。

なんとかかんとか、なおしてやるー。
プロフィール
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春檜臣 (はるひおみ)
性別:
女性
職業:
いんせい
趣味:
カレー
自己紹介:
カレーと共にいざゆかん
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