色んなことがあるけれど。 わたしはきっと、幸せなのでしょう。
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小動物の反応だと言った。
女医は確かにそう言った。
「じゃあこんな環境、生き物が好むわけないわ・・・」
そりゃあ人にとっては、便利なことこの上ない世界かもしれない。
だけど他の生き物にとっては、危険でしかない。
体を電気が流れる。
そんな体験一度でもしたら、もう人間には近づきたくない。
都会になんか近づきたくない。
最近ではどんな田舎でも電波が届くようになったらしい。
どんな山奥でも。
では、もうこの国に生き物が危険なく暮らせる場所はない。
どこにもない。
それは彼らと同じ痛みを受ける小夜にとっても同じということで・・・。
「Cランチとセットのアイスコーヒーでございます」
店員が料理を置き、去っていく。
クーラーのきいた店内には、静かな感じのBGMが流れていた。
店員2名と客が小夜の他に2組。
それぞれ若い恋人同士のようで、華やかな会話が聞こえてくる。
対して小夜は黙りこくったまま、黒いオーラを出してうつむいていた。
まだ昼食を食べていなかったからちょうどよかったのだけど。
ここに飛び込んだのは、なんとなく室内なら安全だと思えたからだった。
一歩でも外に出たら、そこはまた電波の世界。
だからしばらく避難とは言わないけれど、せめてどうやって突破するかは考えなくてはならなかった。
・・・何も思いつかないが。
小夜は息をつき、気を取り直してスプーンを持った。
半熟卵で包んだオムライス。
他のメニューはカツやらフライやらの揚げ物で今は食べる気が起こらなかったので、これしかなかった。
ケチャップを腹で伸ばしてから、すくって口に入れる。
「・・・?」
小夜は首をかしげる。
卵の味がしなかった。
もうひと口食べる。
ケチャップの味もしない。
あるのは米粒のぶつぶつした食感と、マッシュルームや鶏肉のむにっとした感覚だけ。
スープを飲む。
・・・何の味だかわからない。
サラダを食べる。
・・・ドレッシングがかかっているのかさえわからない。
コーヒーをそのまま飲んだ。
・・・ブラックなのに、渋くない。
シロップとミルクをどばどば入れて、再び口に含んでみても何も変わらない。
ただの水みたいだった。
・・・そういえば、良明が言っていた。
薄い、と。
熱いものが小夜の膝に落ちた。
ぱたぱた。
「ら?」
熱い涙が頬を伝う。
味がわからなくなるなんて。
やっぱり何か悪い病気なんだと、小夜は思った。
だから「放射線科」なんだ。
そう思うと、とてもみじめで。
どうして自分ばっかりこんな目にあうのかと、ただただ悲しくて仕方がなかった。
「うっ・・・うう・・・っ」
しゃくりあげすぎて、息ができなくなってきた。
体の酸素がなくなって、腕がしびれてくる。
味のないオムライスが、涙でにじんでしまった。
おいしそうな香りだけが、憎らしく鼻にのぼってくる。
・・・匂いはまだわかるらしい。
わかったところで、味がわからないことに変わりはない。
と。
「うっ・・・」
突然、嗚咽とは別の、胃からこみ上げてくるような気持ち悪さが小夜を襲う。
気持ち悪い。
心なしか、お腹も痛い。
我慢ができる限界は、瞬時に超えた。
さすがに店内で吐くのは申し訳ないとかすかな理性が命じて、小夜は立ち上がろうとする。
が、酸欠で足に力が入らず、床に崩折れてしまった。
一緒にいくつか食器が落ちてきた。
食器の割れる音に、すぐに店員達が駆けつけてくる。
他の客も何事かと立ち上がる。
「お客様!」
「なんだ・・・!?」
「どうなさいましたか、お客様!」
小夜は応えられずにもだえる。
床に倒れても吐き気がおさまらない。
涙で顔面がとても熱い。
痛むお腹が脈打って全身に響く。
酸欠で力が入らない。
吐きたい。気持ち悪い。
頭の中がぐじゃぐじゃになって、周りの人間が判別できない。
「救急車を呼んだほうが良い・・・」
誰かがそう言って、電話をかけ始める。
電話・・・・・・携帯電話。
「いやああぁっ!!」
それが目に入った瞬間、小夜は立ち上がり、相手を突き飛ばしていた。
突き飛ばされた男は、体勢を崩して後ろのソファーに激突する。
手から離れた携帯電話は宙を舞い、回転しながら床に落ちた。
小夜はすかさずそれを踏みつける。
パキッと簡単に真ん中で折れて、画面が真っ黒になった。
更に他の客がいた席のテーブルに置かれた別の携帯電話が目に入る。
「うわああああああ!!」
小夜はそれをつかみ、壁に叩きつける。
力いっぱい何度も何度も叩きつけた。
携帯電話の持ち主らしい女性が悲鳴をあげた。
黒い携帯の表面がはげて、白い壁にこびりつく。
小夜の拳から流れる血も、一緒にこびりついた。
数人の男達に取り押さえられるまで、小夜は泣き叫びながら暴れ続けた。
小動物の反応だと言った。
女医は確かにそう言った。
「じゃあこんな環境、生き物が好むわけないわ・・・」
そりゃあ人にとっては、便利なことこの上ない世界かもしれない。
だけど他の生き物にとっては、危険でしかない。
体を電気が流れる。
そんな体験一度でもしたら、もう人間には近づきたくない。
都会になんか近づきたくない。
最近ではどんな田舎でも電波が届くようになったらしい。
どんな山奥でも。
では、もうこの国に生き物が危険なく暮らせる場所はない。
どこにもない。
それは彼らと同じ痛みを受ける小夜にとっても同じということで・・・。
「Cランチとセットのアイスコーヒーでございます」
店員が料理を置き、去っていく。
クーラーのきいた店内には、静かな感じのBGMが流れていた。
店員2名と客が小夜の他に2組。
それぞれ若い恋人同士のようで、華やかな会話が聞こえてくる。
対して小夜は黙りこくったまま、黒いオーラを出してうつむいていた。
まだ昼食を食べていなかったからちょうどよかったのだけど。
ここに飛び込んだのは、なんとなく室内なら安全だと思えたからだった。
一歩でも外に出たら、そこはまた電波の世界。
だからしばらく避難とは言わないけれど、せめてどうやって突破するかは考えなくてはならなかった。
・・・何も思いつかないが。
小夜は息をつき、気を取り直してスプーンを持った。
半熟卵で包んだオムライス。
他のメニューはカツやらフライやらの揚げ物で今は食べる気が起こらなかったので、これしかなかった。
ケチャップを腹で伸ばしてから、すくって口に入れる。
「・・・?」
小夜は首をかしげる。
卵の味がしなかった。
もうひと口食べる。
ケチャップの味もしない。
あるのは米粒のぶつぶつした食感と、マッシュルームや鶏肉のむにっとした感覚だけ。
スープを飲む。
・・・何の味だかわからない。
サラダを食べる。
・・・ドレッシングがかかっているのかさえわからない。
コーヒーをそのまま飲んだ。
・・・ブラックなのに、渋くない。
シロップとミルクをどばどば入れて、再び口に含んでみても何も変わらない。
ただの水みたいだった。
・・・そういえば、良明が言っていた。
薄い、と。
熱いものが小夜の膝に落ちた。
ぱたぱた。
「ら?」
熱い涙が頬を伝う。
味がわからなくなるなんて。
やっぱり何か悪い病気なんだと、小夜は思った。
だから「放射線科」なんだ。
そう思うと、とてもみじめで。
どうして自分ばっかりこんな目にあうのかと、ただただ悲しくて仕方がなかった。
「うっ・・・うう・・・っ」
しゃくりあげすぎて、息ができなくなってきた。
体の酸素がなくなって、腕がしびれてくる。
味のないオムライスが、涙でにじんでしまった。
おいしそうな香りだけが、憎らしく鼻にのぼってくる。
・・・匂いはまだわかるらしい。
わかったところで、味がわからないことに変わりはない。
と。
「うっ・・・」
突然、嗚咽とは別の、胃からこみ上げてくるような気持ち悪さが小夜を襲う。
気持ち悪い。
心なしか、お腹も痛い。
我慢ができる限界は、瞬時に超えた。
さすがに店内で吐くのは申し訳ないとかすかな理性が命じて、小夜は立ち上がろうとする。
が、酸欠で足に力が入らず、床に崩折れてしまった。
一緒にいくつか食器が落ちてきた。
食器の割れる音に、すぐに店員達が駆けつけてくる。
他の客も何事かと立ち上がる。
「お客様!」
「なんだ・・・!?」
「どうなさいましたか、お客様!」
小夜は応えられずにもだえる。
床に倒れても吐き気がおさまらない。
涙で顔面がとても熱い。
痛むお腹が脈打って全身に響く。
酸欠で力が入らない。
吐きたい。気持ち悪い。
頭の中がぐじゃぐじゃになって、周りの人間が判別できない。
「救急車を呼んだほうが良い・・・」
誰かがそう言って、電話をかけ始める。
電話・・・・・・携帯電話。
「いやああぁっ!!」
それが目に入った瞬間、小夜は立ち上がり、相手を突き飛ばしていた。
突き飛ばされた男は、体勢を崩して後ろのソファーに激突する。
手から離れた携帯電話は宙を舞い、回転しながら床に落ちた。
小夜はすかさずそれを踏みつける。
パキッと簡単に真ん中で折れて、画面が真っ黒になった。
更に他の客がいた席のテーブルに置かれた別の携帯電話が目に入る。
「うわああああああ!!」
小夜はそれをつかみ、壁に叩きつける。
力いっぱい何度も何度も叩きつけた。
携帯電話の持ち主らしい女性が悲鳴をあげた。
黒い携帯の表面がはげて、白い壁にこびりつく。
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数人の男達に取り押さえられるまで、小夜は泣き叫びながら暴れ続けた。
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