色んなことがあるけれど。 わたしはきっと、幸せなのでしょう。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
5
白い壁に叩きつけた、赤い血と黒い粉。
白い天井に、白いカーテン。
病院の真っ白な風景は、それらを鮮明に思い出させる。
瞳を開こうが閉じようが、脳裏に焼きついて離れなかった。
「小夜」
その白い視界に良明が現れる。
「話は終わった?」
「ああ」
「なんて?」
「このまま予定日まで入院してもいいってさ」
「・・・そう」
開いた窓からひんやりした風が入ってきた。
傾いた太陽が、部屋を赤く染め始める。
小夜が風邪をひかないかと案じたのか、良明はすぐにその窓を閉じた。
カーテンも閉められる。
電気のついていない病室は、夜が来たかのような暗さになった。
「店の人や、携帯の持ち主には俺から謝っておいたから」
「・・・ごめんなさい」
「事情を説明したらみんな納得してくれた。だからもう気にするな」
「・・・・・・」
喫茶店で暴れた後、小夜はすぐに近くの総合病院に入院させられた。
偶然にもあの女医の紹介した所だったのは、小夜にとっては皮肉でしかなかった。
もっとも、小夜が入院したのは放射線科ではなかったのだが。
「ひどいつわりだったんだろ?」
「そうね・・・びっくりするくらいひどかったわ」
産婦人科。
病院に運ばれた時、小夜は妊娠五ヶ月目に入っていた。
良明は嬉しそうに小夜のお腹をなでながら、
「味覚がおかしくなって、肌が敏感になって。・・・今思えば、立派な妊娠の兆しだったんだなぁ」
彼は父親になることを手放しで喜んだ。元々子供が好きなのだ。
来る度に絵本やらクラシックCDやらを買ってきては、小夜の枕元に並べている。
きっと家に帰ったら帰ったで、ベビーグッズであふれかえっているのだろう。
安月給なのに大丈夫なのだろうかと、小夜はお金の方が気になった。
彼がそんな風に喜んでくれるのが嫌ではなかったが、小夜はそこまで喜べなかった。
「・・・ごめんなさい」
「気にするなって」
味覚は戻らない。
電波は怖い。
気づかずにここまで流産しなかったのは、単純に運がよかっただけだろう。
飲酒もしたし、危険な作業もたくさんした。
そして何より、子供は何度も電気にさらされた恐れがある。
これ以上さらされることのないように、このまま入院することを希望した。
でも、これから最低半年は入院する自分は、夫に迷惑しかかけられない。
「味覚がおかしくなって、肌が敏感になって。・・・本当に、妊娠だけのせいなのかしらね」
良明には聞こえないようにつぶやいて、小夜は天井を見つめた。
白い、赤い、黒い、痛み。
包帯に包まれた手の甲が、少し痛んだ。
病院は安全地帯。
ここでは電波は、絶対に襲ってこない。
だけどそれは、規則での禁止があるだけのことで・・・。
窓の外の世界では、今もこれからも、ずっと電波であふれかえっているのだ。
小夜は腹に手を当て、優しくつぶやいた。
「あなただけは守るからね」
了
白い壁に叩きつけた、赤い血と黒い粉。
白い天井に、白いカーテン。
病院の真っ白な風景は、それらを鮮明に思い出させる。
瞳を開こうが閉じようが、脳裏に焼きついて離れなかった。
「小夜」
その白い視界に良明が現れる。
「話は終わった?」
「ああ」
「なんて?」
「このまま予定日まで入院してもいいってさ」
「・・・そう」
開いた窓からひんやりした風が入ってきた。
傾いた太陽が、部屋を赤く染め始める。
小夜が風邪をひかないかと案じたのか、良明はすぐにその窓を閉じた。
カーテンも閉められる。
電気のついていない病室は、夜が来たかのような暗さになった。
「店の人や、携帯の持ち主には俺から謝っておいたから」
「・・・ごめんなさい」
「事情を説明したらみんな納得してくれた。だからもう気にするな」
「・・・・・・」
喫茶店で暴れた後、小夜はすぐに近くの総合病院に入院させられた。
偶然にもあの女医の紹介した所だったのは、小夜にとっては皮肉でしかなかった。
もっとも、小夜が入院したのは放射線科ではなかったのだが。
「ひどいつわりだったんだろ?」
「そうね・・・びっくりするくらいひどかったわ」
産婦人科。
病院に運ばれた時、小夜は妊娠五ヶ月目に入っていた。
良明は嬉しそうに小夜のお腹をなでながら、
「味覚がおかしくなって、肌が敏感になって。・・・今思えば、立派な妊娠の兆しだったんだなぁ」
彼は父親になることを手放しで喜んだ。元々子供が好きなのだ。
来る度に絵本やらクラシックCDやらを買ってきては、小夜の枕元に並べている。
きっと家に帰ったら帰ったで、ベビーグッズであふれかえっているのだろう。
安月給なのに大丈夫なのだろうかと、小夜はお金の方が気になった。
彼がそんな風に喜んでくれるのが嫌ではなかったが、小夜はそこまで喜べなかった。
「・・・ごめんなさい」
「気にするなって」
味覚は戻らない。
電波は怖い。
気づかずにここまで流産しなかったのは、単純に運がよかっただけだろう。
飲酒もしたし、危険な作業もたくさんした。
そして何より、子供は何度も電気にさらされた恐れがある。
これ以上さらされることのないように、このまま入院することを希望した。
でも、これから最低半年は入院する自分は、夫に迷惑しかかけられない。
「味覚がおかしくなって、肌が敏感になって。・・・本当に、妊娠だけのせいなのかしらね」
良明には聞こえないようにつぶやいて、小夜は天井を見つめた。
白い、赤い、黒い、痛み。
包帯に包まれた手の甲が、少し痛んだ。
病院は安全地帯。
ここでは電波は、絶対に襲ってこない。
だけどそれは、規則での禁止があるだけのことで・・・。
窓の外の世界では、今もこれからも、ずっと電波であふれかえっているのだ。
小夜は腹に手を当て、優しくつぶやいた。
「あなただけは守るからね」
了
PR
カレンダー
アーカイブ
最新記事
2011
/
03
/
21
(
Mon
)
12
:
50
:
48
)
2011
/
03
/
02
(
Wed
)
21
:
19
:
34
)
2011
/
02
/
06
(
Sun
)
05
:
06
:
56
)
2011
/
02
/
04
(
Fri
)
20
:
04
:
54
)
2011
/
01
/
24
(
Mon
)
16
:
04
:
42
)
最新コメント
>waza さん
(
ぜんぶ闇の中。
)
from:
臣
2010
/
11
/
24
(
Wed
)
21
:
12
:
19
無題
(
ぜんぶ闇の中。
)
from:
waza
2010
/
11
/
23
(
Tue
)
19
:
20
:
49
>waza さん
(
らー油カレー。
)
from:
臣
2010
/
11
/
23
(
Tue
)
14
:
03
:
47
無題
(
らー油カレー。
)
from:
waza
2010
/
09
/
28
(
Tue
)
17
:
42
:
39
>小技
(
ふぇいばりっと。
)
from:
臣
2010
/
07
/
24
(
Sat
)
18
:
52
:
30
リンク