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色んなことがあるけれど。 わたしはきっと、幸せなのでしょう。
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   3

「・・・では、携帯電話の送受信の時に体を電気みたいなものが走る、と?」
「はい」
「テレビの電源を入れた瞬間も?」
「走ります」
 病院の診察室。
 白いカーテンに区切られた空間で、小夜は若い女医と向かい合い、あれこれと問診を受けた。
 病院に着いたのは朝なのに、診察室に入った時にはすでに正午をまわっている。
「・・・わかりました。では、横になって下さい」
 小夜はベッドに仰向けになる。
 女医は一言断ってから、手近にあったクーラーのリモコンを押した。
 ・・・当然、小夜は電気を受ける。
 それから慣れた手つきであちこち触ったり揉んだりつねったり。そのつど小夜の反応を確かめた。
 そして大きく呼吸をする小夜の胸、腕、首、おなかと聴診器を当てていくうちに、彼女の表情が険しくなっていった。
「電気以外には何か、変わったことはあります?」
「電気以外、ですか・・・?」
 見つめてくる女医の表情が硬いままなので、何事かと小夜も徐々に不安になってくる。
「どんな些細なことでもいいです」
「ええと・・・」
 そういきなり言われても、急に思い出せるわけもない。
 ・・・思いつかないということは、気にするほどでもないことだろう。
 小夜は首を横に振った。
「私は専門ではないので詳しくはありませんが・・・あなたの症状は、小動物の反応によく似ています」
「・・・小動物、ですか 」
「はい。イタチやハムスターのような小さな動物は、電波にとても敏感なんだそうです。ペットとして飼う時の注意点なのだそうですよ」
「はぁ・・・」
 女医は紹介文を書くという。
 この病院ではできない検査をするために、もっと大きな病院を紹介すると言った。
 紹介文の入った封筒を手に、小夜は病院を出た。
 結局何が原因なのかもわからないまま、再び外界の喧騒に飲まれることになった。
 足がふらつく。
 息が切れる。
 夏の日差しで背中や額に、べったりとした汗がはりついて気持ちが悪い。
 受け取った封筒だけは落とさないようにと、拳に力を入れた。
 その表にはこれから行く先の、

「××総合病院放射線科様宛」

 放射線科・・・というのは。
 どういう検査をされるのか。
 どういう病気の人が行くのか。
 全くもって、小夜にはわからない。
 でも、「放射線」という文字が、わけもなく怖い。
 さっきから体全体がぴりぴりしている。
 弱い電気がずっと体の芯を流れている感じ。
 足取りはこんなにもだるく、重いというのに。
 病院内ではこんなことはなかった。
 家でも、こんなにずっと続くということはなかった。
 ひょっとして、本当は誰も知らないような重い病気で・・・それが悪化したのかもしれない。
 その症状かもしれない。
 小夜は足を速めた。
 が、はたと立ち止まる。
 上を見上げた。
 周りを取り囲む、たくさんのビル。
 ビルが何重にも重なって、その先に何があるのか全く見えない。
 4本の太い車道が走る大きな通りに小夜は立っていた。
 大都会。
 色んな騒音が混ざって、耳をくすぐる。
 昼時の休憩中か、人通りはとても多い。
 すれ違う人と肩が当たりそうになるのは当たり前。
 その人々の手に、必ずと言っていいほどあるのが。

 携帯電話。

 世界は。
 この世界はこんなにも、電波にあふれていた。
 電波なしじゃ生きていけない。
 それくらいに、大切なもの。
 生活の一部になってしまって、なかなか気づかないけれど。
 辺りを、この空間を、空気を、生き物の体を突き抜けて、途絶えることなく飛び回る、見えない震動。
 電波・・・。

 その世界がぐにゃりとゆがんでいく。
 ここ一週間、電波に脅えてほとんど寝ていない。
 小夜は頭をおさえ、ちょうど視界の隅に入った喫茶店へと駆け込んだ。
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危険地帯 3
現代日本では、携帯電話は財布の次、またはそれ以上に大事な存在になっています。
この今いる空間も、目に見えないだけで電波が飛び交っています。

でも、「電波」は目に見えない凶器です。

一番知られているのは「ペースメーカー」でしょう。
電車などの優先座席付近で携帯電話の電源を切らなくてはいけないことは、おそらくご存知でしょう。

実際は携帯電話が体の30センチ以内にある時が危険らしいです。
でも、優先座席で携帯電話をそのまま使っている人、かなりいると思います。

「こんな近くにいるわけがない」とか「ちょっとだけなら」とか思って。
でも、本当に危険なのですよー。

あとは作中で女医が言っていたように、「小動物」の現象。
フェレットを飼っている友人宅で、受信直前に電波に反応して逃げる姿を見たりして。

そんな「電波」にまつわることとかを、いろいろ考えながら書きました。

つづく
2006/09/13(Wed)19:31:21 編集
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