忍者ブログ
色んなことがあるけれど。 わたしはきっと、幸せなのでしょう。
[48]  [47]  [46]  [45]  [44]  [43]  [42]  [41]  [40]  [39]  [38
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

   1

「・・・薄い」
「え?」
 味噌汁に口をつけた夫、良明は開口一番そう言った。
 マンションの三階。2DKで月5万の、古いけれど広くて安い家。
 でも、家具だけは真新しい。ここに住み始めて、まだ3月も経っていないのだから。
 お互い趣味を仕事にしたような低収入同士、式も挙げずに籍だけ入れたふたりの城。
 そのダイニングで。
「薄い?何が?」
 無言で椀を差し出される。
「何か入れ忘れたかしら?」
 小夜はまだ一口も飲んでいなかった自分の椀を持ち上げ、すすった。
 良明がからかうような目で、横からその様子を見て。
「小夜が料理で失敗するなんて、珍しいよな」
「失敗?どうして。普通の味じゃない」
「え?おかしくなかったか?」
「全然。ちょうどいいわ」
 良明は首をかしげ、再び自分の味噌汁を飲む。
「なんか薄い塩味の湯に浮いたワカメを食べさせられている気分だ。気持ちが悪い」
「失礼だわ。普通の味噌汁なのに・・・」
「俺はありのままを言っただけだ」
「ひどいっ!そんなに私の料理が気に入らないのなら、自分で作ればいいでしょう!大体あなた、結婚前は家事は半分ずつって言っていたのに私ばっかりにさせて!」
「ちゃんとやってるだろ!毎日皿洗いと風呂掃除!」
「どっちも楽な仕事じゃない!」
「なんかお前変だぞ?今日はどうしてそんなに突っかかるんだ?」
「あなたが先に言ったんでしょう!」
 目に涙をためてそう言うと、良明は困った顔になって黙り込んだ。それから静かに、
「・・・まったく、わけがわからない」
 大きく息を吐き出して、寝室の扉を乱暴に開き、音を立てて閉じた。大きな音に、小夜の肩がびくっと反応する。
 あとにはテーブルの上にふたりぶんの食べかけの夕食が取り残される。
 自分もすっかり食べる気がなくなってしまった。
 食器を重ね、残ったごはんにラップをかけようとして、手が止まった。
「不味いというのなら、わざわざ残す必要はないわよね」
 そう悪態をついてから、残ったご飯をすべてゴミ袋に流しこんだ。鍋に入った味噌汁も捨てる。
「皿洗いだって、いつも私が主じゃない。良明は隣でふきん持って立って、洗い終わった食器を拭くだけで・・・」
 イライラが食器を洗う手にも伝わって、泡がいつもの倍は膨れ上がった。
 料理には人並みか、それ以上の自信がある。
 だから小夜は、余計に腹が立った。
 良明だっていつも「おいしい」って誉めていっぱい食べてくれるのに。
 本を見ないと作れない難しい料理ならまだしも、味噌汁なんかで間違えるわけがないのに・・・。
「・・・なんなのよっ!」
 力を入れすぎて泡が顔にはねた。
 目にしみたので、慌てて顔を洗う。
 冷水で顔をぬらすと、熱が手に伝わる。頬がとても熱い。怒りすぎた。
 熱くなった頬を十分に冷ましてから、蛇口を閉めた。
 濡れた顔を拭こうと、かけてあるタオルに手をのばす。
と。
――バチッ!
「ひゃあぁっ!?」
 突然、顔面に強い電気が走り、小夜は目の前が真っ白になった。
 驚いた拍子、その場に尻もちをつく。
「小夜!?」
 悲鳴を聞きつけ、すぐに良明が飛んできた。流し台のそばに座り込んだ 小夜の姿を見つけると、駆け寄って腕をつかんで引っ張り起こす。
「転んだのか?台所で?」
 質問には答えず、小夜はおそるおそる頬に触れる。・・・まだ顔がぴりぴりする。
 動悸が速い。顔で脈がとれてしまいそう。
 そしてなぜそう思うのか、何かが迫って「来る」感じ・・・。
 小夜が黙り込んでしまったので、まだ怒っていると思わせたのか。良明は不安そうな表情になった。
「小夜?」
 その時、再びぴり、と電気がくる。
 今度は彼につかまれた腕に走った。
「きゃっ!」
 小夜は思わず腕を振り上げた。反動で彼を振り払ってしまう。
「あ・・・」
 顔をあげると、良明は怒ったような泣きそうな表情を浮かべていた。しまった、と思った時にはもう遅い。
 怖くなって、小夜は逃げた。部屋の隅っこで、カーテンにすがりつく。
「小夜、お前・・・」
 拒絶されたことに腹を立て、良明が荒っぽく腕をのばしてくる。
 その指先が小夜に触れようとした時、目の前で良明の胸ポケットが震える。
「・・・ああ、取引先からメールが返ってきた」
 携帯電話を取り出し、いじり始める良明。
 メールに助けられた。
 解放され、小夜はカーテンを握りしめたままほっと胸をなでおろしてうつむいた。
 体が、変。
 おかしい。
 よくわからない。
 メールを打つ音を横に、ぎゅっと瞳を閉じて小夜は自分の肩を抱いた。
 その時、三度目が来る。
 来る・・・そう、「来る」。
 なぜだろう。
 「来る」と、はっきりわかった。
 顔をあげると、メールを打ち終えた良明・・・。
「まさか」
 三度目の「電気」によって、小夜は膝から崩れ落ちた。
 が、すぐに起こされ、頬を叩かれる。
 何度も電気を受けて、平気でいられるわけがない。
 脱力して動けない体のまま、うつろに天井を眺めて。
「・・・あなた、メールは今ので三通目?」
「え?」
 思いもしない問いだったんだろう。良明は面食らった。
 小夜は確信する。
 にわかには信じられないけれど。
 でも、原因はおそらく・・・
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
危険地帯 1
高校のときの仲間たちとの企画もので、ネットにアップしなきゃいけないものだったので、ブログからアップさせていただきました。

1から5話まで。
臣の作品の中ではかなり短いものです。
原稿用紙30枚分。

これを3日で仕上げました。
ホントは3週間もあったはずなのだけど。。

・・・忙しかったのですよ!

つづく
2006/09/13(Wed)19:10:03 編集
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
プロフィール
HN:
春檜臣 (はるひおみ)
性別:
女性
職業:
いんせい
趣味:
カレー
自己紹介:
カレーと共にいざゆかん
カレンダー
08 2024/09 10
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
最新記事
2011 / 03 / 21 ( Mon ) 12 : 50 : 48 )
2011 / 03 / 02 ( Wed ) 21 : 19 : 34 )
2011 / 02 / 06 ( Sun ) 05 : 06 : 56 )
2011 / 02 / 04 ( Fri ) 20 : 04 : 54 )
2011 / 01 / 24 ( Mon ) 16 : 04 : 42 )
最新コメント
2010 / 11 / 24 ( Wed ) 21 : 12 : 19
2010 / 11 / 23 ( Tue ) 19 : 20 : 49
2010 / 11 / 23 ( Tue ) 14 : 03 : 47
2010 / 09 / 28 ( Tue ) 17 : 42 : 39
2010 / 07 / 24 ( Sat ) 18 : 52 : 30
QRコード
忍者ブログ * [PR]